スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

あるオオギリストのちくわ私小説 2

この物語はある女性オオギリストのちくわにまつわる実体験を想像し、
大幅に脚色を加えたものである。

つまり、大きな意味でノンフィクション小説である為、
プライバシー保護の観点から、その女性の名は一旦伏せておく。

それではご覧ください。
不定期小説 ちくわ物語 第2話 戦場編



前線からその知らせが届いたのは、夜も白み始めた頃だった。
銃砲で熱せられた空気も、朝露を浴びてしっとりと濡れている。

「落ち着いて聞いてほしい。Kが戦死した」
ベッドで横たわる兵士の右足に、止血帯代わりのちくわを巻いている私に、軍医はそう言った。
知らぬ間に力が入っていたらしく、私の持っていたちくわは千切れ飛び、あらぬ方向へと飛んだ。
「そんな・・・嘘よ・・・」
軍医は静かに首を振った。
「敵の銃弾を胸に受けたのを他の兵士が見ていた。戦場のごたごたでその後はわからないが、おそらく・・・」
「嘘よ!」
私は叫んだ。
「そうよ、きっと見間違いよ。だって・・・」
約束したのだ。
彼は、必ず私の所に帰ってくると。
なおも続けようとする私に、軍医は何かを差し出した。
「これは・・・」
「見覚えがあるはずだ。撃たれた兵士が持っていた物だよ」
それは一本のちくわだった。
「君が彼にお守りとして渡したものだね」
そう。彼が最前線へ向かうと聞いた日に、私が手渡した物。

「持っていて頂戴。私の心がこの中に詰まってるから」
「おいおい、その割に中はゴボウが入るくらい空洞だぜ」
「馬鹿ね、しっかりと練りこんであるのよ」
行かないで、言う言葉を飲み込んで、精一杯の軽口を叩きながら渡したちくわ。

恐る恐る手に取ったちくわの冷たさが、彼の死が真実なのだと私に感じさせた。


気がつくと夜になっていた。
何をどうして過ごしたのか一切覚えていない。
手には彼の遺品となったちくわが握られていた。
私はちくわを見つめる。
彼を助けることが出来なかったちくわ。
彼が言っていたように、空っぽだったちくわ。
空っぽになった私の心すら埋められないちくわ。
ちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわちくわ。

「こんなもの・・・」
私はつぶやいた。
何がちくわだ。彼一人助けることも出来なかったくせに。
ちくわなんかなければいい。
そうだ、いっそカマボコになってしまえばいい。
私の心と一緒に消え去ってしまえばいい。

知らぬ間に、私はちくわを投げ捨てようと右手に力を込めていた。

―――その時だった。
「おいおい、俺の命の恩人をどうするつもりだよ。いや、恩ちくわかな?」
不意に私の背中に届いた声。
それはーーー。
「・・・・・・K・・・・・・?」
その顔を見た瞬間、私は思わず崩れ落ちそうになった。
そんな私を、彼は慌てて支える。
「怪我人に無理させるなよ。これでも胸に穴開いててんだぜ」
憔悴しきった顔ではあったが、その顔も、声も、間違いなく彼だった。
「生きてーーー生きてたのね」
それだけ言うのが精いっぱいだった。
その後言葉にならない嗚咽を続ける私に、彼は言った。
「君のお守りのおかげさ」
そういって彼が手に取ったのは、私が投げ捨てようとしたちくわだ。
「狙撃兵の姿に気付いた時は、もう駄目だと思ったよ。でもさ、不思議なんだ」
そう彼は言った。
「自分でもなぜそうしたのかわからない。何故か俺は、その瞬間ちくわを心臓の下辺りに添えたんだ。ここを撃ってくれと言わんばかりにね」
「ちくわを・・・?」
「そうだ。ちくわをだ。そしたら何故か、狙撃兵もそこに照準を合わせたんだ。敵兵ながら腕のいい奴だった。そいつの放った銃弾は、まるで最初からそこを通ることが決まってたみたいに、ちくわの空洞をすり抜けていった。
そうーーー。心臓も肺も傷つけることのない、もっとも安全な部分をね」
包帯でぐるぐる巻きにされた胸部を触りながら彼は言った。
そして、いまだ呆然とする私に向かって、彼は続けた。
「―――ただいま」
言いながら彼は、ちくわを私に返した。
朝触った時の冷たさが嘘のように、そのちくわは彼の手のぬくもりで温まっていた。
温かい・・・・・・Kの温かさだ。

ちくわは私を裏切ってなどいなかった。
それどころか、もっとも大切なものを守ってくれた。
彼は私を抱きしめ、私はちくわを抱きしめる。
今はただ、こうしていたかった。
このぬくもりが消えてしまわないように。

そんなある日のちくわの話。
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

mkmk1977

Author:mkmk1977
mkのブログです。

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
FC2カウンター
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。