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あるオオギリストのちくわ私小説 1

この物語はある女性オオギリストのちくわにまつわる実体験を想像し、
大幅に脚色を加えたものである。

つまり、大きな意味でノンフィクション小説である為、
プライバシー保護の観点から、その女性の名は一旦伏せておく。

それではご覧ください。
不定期小説 ちくわ物語

「全治二カ月ですね」と医者は言った。
―――ちょっと転んだだけだったのに、ずいぶんと派手な事になってしまったな。
私は右足を包むちくわを見ながらそう思った。
「今日で三日目ですから、だいぶカピカピになってきましたね。これなら少々のことで壊れることもないでしょう」
私の肌より少し薄い、魚の白身の色をしたちくわを見ながら、医者は満足げに頷いた。
「一ヶ月もすれば骨もくっつきますし、ちくわを取って包帯に変えてもいいでしょう。でも、それまではしばらく安静に」

思っていた以上に入院生活は退屈だった。
杖をつきながら歩くのが億劫だったせいもあるが、歩いたところで目新しいものがない景色なだけに、私は生活のほとんどをベッドの上で過ごすことになった。
窓からは見えていた桜の花も今ではだいぶ散り、まるで私だけが時間に取り残されたような気分になる。
2週間が経ったが、見舞いに来たのは今のところ家族だけだ。
無理もない。
私が入院したのは、高校の入学式の初日だった。
県外の高校に進学した為、学校に昔からの知り合いは一人もいない。
そして今入院しているのは、その高校のある県立病院である。
救急車で運ばれた先がここだったのが運のつき。家を出てすぐだったなら、地元の病院に入院してただろうに。
会ったことものないクラスメイトの入院なんて、彼らからしてみれば、気に留めたこともない通行人Aが、最初からいなかったという程度のことだろう。
そんな状況が、私の気持ちをより憂鬱にさせていたのかもしれない。

幼馴染のJが見舞いにやって来たのはそんな時だった。
「なんだ、意外と元気そうじゃねえか」
残念とでも言いたげにJが軽口を叩いた。
たった一か月前まで毎日のように聞いていた彼の軽口だったが、何故か非常に懐かしいものに感じられる。
「うっさいわね、馬鹿にしに来ただけならさっさと帰んなさいよ」
忘れかけていたいつものやり取りを、私はドキドキしているのを悟らせないように、出来るだけ平然を装いながら返す。
「あいかわらず可愛げのねえ奴だな。せっかく2時間かけて来てやったってのに」
言いながらJが笑う。
飽きるほど見てきた笑顔なのに、今はなぜか鼓動が速くなるのを感じた。まるで時間に取り残された自分を、慌てて元の位置に戻そうとするかのように。
10分ほど話した頃だろうか。
「右足、本当に大丈夫か」
ちくわでしっかりと固められた私の右足を、Jが心配そうに見つめた。
「もうほとんど治ってるし、心配ないわよ。ちくわも、あと一週間もしたら外せると思う」
なんだか心配されるのが悔しくて、私は必要以上に元気な声をだした。
「そっか、なら良いんだ」
Jが安心した、という表情を見せる。
馬鹿ね、何をそんなに心配してるのよ。ただの幼馴染のくせに。
そう心の中でつぶやいたのは、ひょっとしたら、自分自身に言い聞かせる為だったのかもしれない。
とーーー。
Jの表情が、悪戯っぽいものに変わった。
「あと一週間か・・・ならちょうど良いくらいかな」
言いながら、Jがカバンの中から何かを取りだした。
嫌な予感がした。
「ちょ・・・あんた何する気よ」
「決まってるだろ。入院して、ちくわはめてるって言ったらお約束のこれだ」
ニヤリと笑うJが右手に持っていた物はーーーあんのじょう練りガラシだ。
「なーに、ちゃちゃっと書くだけだ。さあ、覚悟しろ」
「ちょ・・・あんたそれSBのやつじゃないの!それなかなか落ちないんだからせめてハウス食品のに」
「ハッハッハ、問答無用!」
身動きの取れない状態だけに、勝負はあっけなくついた。
「じゃーな!早く退院しろよ」
満足げな顔で、Jが病室を出ていこうとする。
「うるさいバカ!早く出てけ!」
その場に残してあった練りガラシを投げつけようとすると、彼はあわてて扉を閉めた。
まったく・・・ホント、馬鹿なんだから。
急に静けさを取り戻した病室で、私はちくわを見る。

―――元気になったら、また遊びに行こうぜ J―――

黄色い練りガラシで描かれた文字が、ちくわの上にこんもり盛られていた。
ホント、馬鹿なんだから・・・。
知らぬ間に、私は微笑を浮かべていた。
その口元に、細い涙の筋がたどり着く。
私、なんで泣いてるんだろう?
素直な答えを出そうとして、すぐにやめた。
きっとカラシが目にしみたせいだ。
そう言い聞かせながら、私は再びベッドに横になった。
自分でも気付かないうちに、Jが書いた文字が壊れないように慎重になりながら。

そんなある日のちくわの話。
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